恋架け橋で約束を
 私は、孝宏君の腕の中にいた。
 孝宏君が駆け寄って、私を抱きしめてくれたから。
「佐那ちゃん……。会いたかったよ! やっぱり、やっぱりあの日々は……佐那ちゃんがいてくれた日々は夢なんかじゃなかった!」
 孝宏君は泣いてるみたいだった。
 私もまた涙があふれてきた。
「もう佐那ちゃんのこと離さないから。佐那ちゃんも……もう消えちゃダメだよ」
「うん……うん……」
 あ、そういえば……。
「えっと………あの日、私は消えちゃったの?」
 記憶が途絶えた先のことを、私は知りたかった。
 孝宏君は少しだけ身体を離して、でも両手は私の背中に回したまま、そっと目を閉じて話し始めてくれた。

「あの日……二十年前の今日……佐那ちゃんをおんぶして、この恋架け橋まで急ぎ足で向かっていたんだけど……突然、背中がどんどん軽くなって……。見ると、佐那ちゃんの姿が薄く薄く、透明に近づいていってるのが分かって……。僕はびっくりして、すぐに何度も佐那ちゃんの名を叫んだんだけど……やがて、消えちゃったんだ。跡形もなく……」
 孝宏君は苦しそうな、そしてつらそうな表情で話を続ける。

「僕は目の前で起きたことを信じられずに、佐那ちゃんを必死で探したんだ。あり得ないと思いながらも、元来た道を引き返したり、秘密の場所まで足を伸ばしたり、佐那ちゃんと行ったことがある場所へ手当たり次第に向かって、ひたすら探して……。神社の中や、この恋架け橋、学校前……行ける範囲のありとあらゆる場所を探したよ。でも、成果はなくて、気がつけばかなり遅い時間になってたから、仕方なく家に帰って……。傘もささずに、ずぶ濡れでね。ばあちゃんに事情を話したら、すぐに警察に連絡してくれたんだけど、それ以降、佐那ちゃんの姿はどこにも見つからなかったんだ。でも……佐那ちゃんが使ってた部屋に、一緒に見つけたあの王冠や、佐那ちゃんが最初から持ってた絵馬など、佐那ちゃんが家に置いていた荷物が、そっくりそのまま残ってたし……佐那ちゃんが僕たちの前にいてくれたことは、紛れもない事実だってことは、はっきりしてたよ。それに……ばあちゃんや智、雪乃姉ちゃん、崎山、九十九さん、交番のお巡りさんなど……佐那ちゃんを見たことある人は、佐那ちゃんの存在が夢だったわけがないってはっきり確信を持って言ってくれてね……。むしろ『佐那ちゃんが消えた』っていう僕の発言を疑ってきたぐらいで。それから、智や崎山、九十九さん、雪乃姉ちゃんたちにも手伝ってもらって、ほんとにありとあらゆる場所……遊園地や室内プール、プラネタリウムなどを含めて、探し回ったんだけど、手がかりすら見つからなくて……。結局、佐那ちゃんにはそれっきり会えないまま、時間だけが過ぎてしまったんだ……」
 孝宏君はつらそうな様子で言葉を切った。
 私は黙って、話の続きを待つ。
 聞きたいことは山ほどあったけど、とにかく続きが気になって。
 それに、孝宏君の話の邪魔をしたくなかったから。

「それからというもの、僕はずっと、佐那ちゃんを待ち続けることにしたんだ。ばあちゃんも同じ気持ちでいてくれたみたいだった。毎年、七月七日になると、僕はこの街に必ず帰ってくる。そして、ばあちゃんに挨拶したあと、佐那ちゃんと僕が初めて出会った、あの神社前にまず行く。次に秘密の場所へ行って、来た証として、紙を入れる。そして、この恋架け橋に立ち寄り、佐那ちゃんとの再会を祈って帰る。この一連の行動を、毎年続けることにしたんだ。もちろん、その他の日だって、しょっちゅう佐那ちゃんのことを思い出したよ。佐那ちゃんのあの『ずっとずっと一緒にいてくれるよね』っていう言葉が耳から離れなくて……。僕はずっと心から信じていたんだよ……いつかまたきっと会えるって。僕らが出会った奇跡が起きたんだもん、再会する奇跡が起きる可能性はきっとあるはずだって信じてたよ」
「ありがとう……。さっき、秘密の場所へ行ってきて、紙を全部見たよ。毎年、来てくれてるんだなぁって分かって……泣いちゃった」
 また涙が次から次へと出てきて、止まらない。
 でも、すぐそばにいるカップルさんが、心配そうに私を見てくれているのに気づくと、私は慌てて目元をぬぐった。

「見てくれたんだね、ありがとう。実は今日は、節目の二十年目ということで、先にこうして恋架け橋で星を見ることにしたんだけど、このあと、秘密の場所へ紙を入れに行くつもりだったんだよ。ほらね」
 そう言って、孝宏君はポケットから紙を出して、見せてくれた。
「ここに、今年は私の名前を書かなくちゃ」
「うん、よろしく!」
 孝宏君が嬉しそうに言ってくれるので、私も笑顔になる。
 そして、孝宏君はまた私を抱きしめてくれた。
 私も愛しくて、嬉しくて、孝宏君にぎゅっと抱きつく。
 もう絶対に離れたくない。
 ずっと、ずっと一緒だから!
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