恋架け橋で約束を
 どのぐらい時間が経ったんだろう。
 やがて、ゆっくりと身体を離した孝宏君が言った。
「ところで……聞きたいことは山ほどあるんだけど……。まず、一番聞きたいことから順番に、質問いいかな?」
「あっ、私も聞きたいこと、あるよ」
「じゃあ、レディーファーストってことで、佐那ちゃんから、どうぞ」
 やっぱり、孝宏君はいつでも優しいなぁ……。
「ありがとう。えっと……おばあさんや雪乃さん、智君、崎山君、美麗さんたちは、みんな元気なの?」
「うんうん。ばあちゃんはさっき会ったばかりだし、雪乃姉ちゃんにもお盆とお正月には毎年必ず会うし、智と崎山と九十九さんには去年の年末、同窓会で会ったんだけど、全員元気でやってるみたいだよ」
「よかった~」
「そして、多分、佐那ちゃんは知らないビッグニュースがあるよ!」
「え? なになに?」
 孝宏君の楽しげな笑顔を見ると、どうやら良いニュースみたいだと分かる。
 私はわくわくして答えを待った。
「智と九十九さん、結婚したよ。もう何年も前だけどね」
「えええっ?!」
 ほんとにビッグニュース!
「仲良し夫婦って感じ。あの二人には申し訳ないけど、意外でしょ?」
「うんうん! 私もまたお二人に会ってみたいな。おばあさんや雪乃さん、崎山君にも」
「ばあちゃんにはすぐ会えるよ。何なら、このあとすぐ、行ってみる? 家の外観も、二十年前とほとんど変わってないから」
「行く行く!」
 私はうきうきして答えた。

「じゃあ、僕の番だね。いい?」
「うん。私もさっぱり分かってないことも多いけど、分かってることなら何でも答えるよ」
「えっと……佐那ちゃんはどうして、あの頃のままの姿なの? 見た目が、二十年前そのままなんだもん、びっくり。何だか、僕ばっかり年を取っちゃってるじゃん」
「それは色々と事情があって……話は長くなるので、後でね。おばあさんにも会いたいし、秘密の場所にも行きたいから」
「え~! 気になるから、先に話してよ」
 笑顔で頼む孝宏君。
「あとでゆっくり。時間はたっぷりあるでしょ」
 私も笑いながら言った。

「もう、いなくならないよね……?」
 突然、孝宏君が心配そうな表情になって言う。
「もう絶対に大丈夫。とある理由から、私はそう確信してるから、もういなくならないって約束できるよ」
「どうして? その『とある理由』を詳しく教えてよ」
「それは、また後でゆっくり、ね」
「もう~! 焦(じ)らされてばっかりだよ。佐那ちゃん、二十年前はそんなイジワルするような子じゃなくて、もっと優しかったのになぁ」
 冗談めかしてそう言うと、孝宏君はまた笑顔になった。

「あ、そうだった……。ちなみに……私、今年の四月から、平日はほぼ毎朝ずっと、孝宏君が車掌さんをしている電車に乗ってたんだよ。孝宏君が見える位置にね」
「ええっ! ちょ、ちょっと待ってよ! 気づいてたなら、どうして声をかけてくれなかったの?!」
「それには深~い事情があって、私にはどうすることもできなかったの。ほんとだよ。孝宏君に気づきながら、黙ってられるわけないもん」
「その事情って……?」
「それも後でゆ~っくり話します」
 私は笑顔で言った。
「もう~! そればっかり!」
 孝宏君も笑いながら言う。

「しかし、全然気づかなかったなぁ。灯台下暗しってとこか……。仕事に集中しすぎてたせいかも……。それにしても、残念。もっと早く気づきたかったよ……」
「通学のときは制服姿で、髪もくくってるから、気づかなかったのかもね」
「うーん、早く佐那ちゃんの話が聞きたいなぁ……。覚悟しておいてね。後で必ず、全部聞き出すから」
 孝宏君がイタズラっぽく笑う。
「はぁい。ゆ~っくり説明するね」
 私もつられて、心からの笑顔になった。

「じゃあ、今年こそ……約束できるね」
「え?」
「もちろん、恋架け橋の伝説だよ。僕、ずっと待ってたんだよ」
 そういえばそうだ。
 結局まだ約束できてなかった。
「あ。佐那ちゃん、その表情……。さては、すっかり忘れてたでしょ」
 私のほっぺたをつつきながら言う孝宏君。
 こうされるのが、何だか恋人っぽくて嬉しい。
「だって~。もう会えないのかなって心配で心配で……。でも、こうして出会えて、嬉しくて……この喜びで、私の頭はいっぱいなんだよ。それに……ある意味、もう……伝説は本物だったと、私は確信してるから」
「うん、たしかに。だけど、それでも一緒に誓おう! もう二度と、離れ離れにならないように。この二十年間、本当につらかったんだから」
 うつむく孝宏君。
 そうだ……二十年間も待たせちゃったんだ私……。
「ごめんね。本当にごめんね……。私なんかを待っていてくれて……ありがとう……」
 そう言って、私はまた抱きつく。
 涙が止まらなかった。
「当然のことだよ。僕には佐那ちゃんしかいないから……」
 そう言って、私の身体に腕を回し、力をこめてくれる孝宏君。
 屋外でこうやって熱烈に抱き合うのは普段なら顔から火が出る思いだろうけど、周りのカップルさんだって似たようなことをしているので、今は気にならない。
 少しだけまた身体を離し、私の目を見つめながら、孝宏君が言う。
「それじゃ、誓おうね……。佐那ちゃんと僕は、これから……ずっと、ずっと、一緒だよ」
「はい……孝宏君と私は……ずっと、ずっと……いつまでも一緒です」
 私も孝宏君の目をまっすぐ見つめて、誓った。
「佐那ちゃんが敬語を使って話すのを聞くのも、二十年ぶり。そもそも、佐那ちゃんの声を聞くこと自体、二十年ぶりか」
 苦笑する孝宏君。
 ほんとに長い時間、待たせちゃったんだなぁ……。
「じゃあ、佐那ちゃん……。久しぶりに……」
 言いたいことが分かった。
 キスしてくれるんだ……。
 私が目を閉じようとした瞬間―――。
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