【完】キミと生きた証
1時間目は体育。


あたしは体育の時間は見学か、保健室や教室で勉強してるかって決まってる。


今日は保健室で勉強だそうで、あたしは仁奈ちゃんと別れて保健室に向かった。



「ちーちゃん、どうしたのそれ?」


入学してから何度となく運ばれたせいで、すっかり仲良くなった保健室の先生、真由(マユ)ちゃん先生が包帯を指さしてる。


コトを伝えると笑われた。


「病院行ったらこうなったの?」


「そう。駅でやけどしたから・・駅員さんが手当してくれて、病院行こうってなったの。いいって言ったのに。そしたらこうなっちゃって。」


「ど派手にされたね。」


「でしょー?ペン持ちにくいなぁ・・・。」



真由ちゃん先生が書類を書いてる。私はその近くのテーブルで、プリントをひらいた。



「真由ちゃん先生、この和歌って意味わかる?」


「ん?どれどれー?先生こうみえて古典は得意だよ。」


真由ちゃん先生はプリントに並ぶ31モーラの文字列を見つめて溜息をついた。



「切ないねぇ。」


「真由ちゃん先生これよめたの?」


「禁断の恋を背景に、激しい愛と切なさが垣間見える傑作ね。」


「あ、たしかにそんなこと言ってたかも。ちょっと可哀想な歌だったっけ。」


「ちょっと可哀想って・・・。わかってないなぁー。」



真由ちゃん先生は湯気のたつコーヒーをすすって、幸せそうに口元をほころばせた。
あたしはその匂いに味を想像するのみ。



「ちーちゃんは人気者だけど、好きな人いないの?」


「人気者じゃなくてペットだけど、みんなスキだよ。」


「恋愛の意味では?誰かを大好きってならないの?」


「うーん、まだわかんない。」


「そっかぁ。うんうん、ちーちゃんらしくゆっくりいこ。先生も応援するから好きな人できたら言ってよね!」


「うん!」




あたしらしく、ゆっくり。か。


確かにあたしは急ぐことができない。


急いだら息が切れるし、もしも走ったら倒れちゃう。



でも、ゆっくりしてられない。


あたしにはあんまり時間がない。



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