【完】キミと生きた証
「ベンゼン・・・?」


ちとせは俺の化学の教科書をみつめて首をかしげる。


・・・かわいーんだけど。


ここはちとせの家のリビング。すぐ後ろのキッチンでちとせのお母さんが夕飯つくってる。


だから何でもないように、勉強してるふりをするけど。




長い睫の下で大きな瞳が興味津々に教科書を見つめてる。


暖房であったまった部屋で、ちとせの白い肌が赤く火照る。


小さな両手で俺の教科書を握りしめて、



「・・・ヘキサ?クロロ?」


ちっせえ唇が放つ可愛らしい声色。


首をかしげて、教科書とにらめっこ。



「ヘキサクロロベンゼン・・・。」



教科書から目線をあげて、復唱しながら俺を見つめる。



覚えれた!みたいな嬉しそうな顔でもう一度、「ヘキサ、クロロベンゼン!」。




もうやめてくれ・・・。


なんでこんな呪文みたいな言葉に俺はときめいてんだよ。



「瞬どうしたの?」


「・・・いや。別に・・。」



俺、ヘキサクロロベンゼンだけは一生忘れねえ気がする。



ちとせは俺の教科書を置いて、自分の休学中の課題に手を伸ばした。



俺はちとせが手放した教科書の隅に文字を書き加えて、ちとせの方へとスライドさせた。



===

あとでちとせの部屋行こう

===


「いいよ」


あっさり口で答えやがる。



勿論部屋で何するわけでもねえよ。



めちゃくちゃ抱きしめて、キスしたいだけだ。





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