私の王子様を見つけました
暫く無言のままの車内、息苦しくてたまらない。


どうしよう。


「拓斗に会いたくて、モデルになったのか。」



首を左右に振った。



「違うんだ。なら、どうして。」



「歩いていたら、三枝木美奈さんにモデルをやらないかと声をかけられました。」



氷室直人は納得したようで、それ以上話しかけて来なかった。



車に氷室拓斗が近づいて来て、ドアをノックする。



窓が開くと氷室拓斗は表情を変えずに、直人さんに言った。



「俺の商品に手を出すなよ。」



直人さんは何も答えない。



氷室拓斗にとって、私は商品でしかないのだ。


分かってたけど、胸が苦しい。



「それはおまえしだいだな。」







意味が分からない。



拓斗しだいって、何ですか。



私にも分かるように説明して下さい。



「加納、早く帰って寝ろ。」



「おやすみなさい。」



それしか言えなかった。



早くこの場から去りたい気分だ。



「拓斗は両親が離婚してから、変わってしまったんだよ。あんなに笑ってた拓斗が笑わなくなった。」



そうだったんだ。



氷室拓斗は隣の優しいお兄ちゃんだった。


いつも遊んでくれてた拓斗が、ある日突然遊んでくれなくなった。


高校生になった拓斗の変わりように驚いたのを覚えている。



髪を染めて、ピアスをして、まるで別人になってしまったから。



10才の私は何も分からなかったけど。



遊んでくれなくても、氷室拓斗を好きな気持ちは変わらず、いつか必ず氷室拓斗に告白すると決めていた。

















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