白い月~夜明け前のその空に~
耳に残る、今朝の『いくう』『ゆぢゅう』『ばーたん』『じーたん』と、家族の名前を呼ぶ瞬の声。
彼の硬くなった表情と心が緩む。
ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべる。
瞬は陸を名前で呼ぶ。
きっと相園家で聞いた言葉をそのまま覚えたのだろう。
陸もまた、直させようとはしなかった。
パパと呼んで欲しくない訳ではなかったが。
急用ができたせいでいつもより昼休みが短い。
お弁当の最後のおかずを食べながら、ノートに挟んでおいた申し込み書を手に取り、何となくまた目を通す。
「ふぁ~あ」
ふいにあくびをした時、湿った風が強く吹きつけ、陸の手から申し込み書をさらった。
「あ、やべ」
舞い上がった後、植え込みに引っかかり、弾かれたように立ち上がって取りに行こうとすると、横脇から駆け寄ってきた女子が、彼より先に申し込み書を救出した。