結びの魔法
お箸なんて使ったことが無いので持ち方が分からない。手をグーにして握ってみたり回

りのまねをしてみたり。そしてやっと野菜のかけらが持ち上げられた。それをそっと落

とさないようにして口に運ぶ。その野菜はとてもとてもおいしくて、僕らは箸の持ち方

も気にせず食事にいそしんだ。

「よかったね・・・。」

先生は少し離れた場所で小さくつぶやいた。

部屋に帰った僕らは疲れなど残ってなく、逆に幸福感に満ち溢れていた。

「おいしかったぁぁ!」

僕は布団を出しながら満足げに言う。実際これ異常ないほど幸福だった。

「『もう死んでも良い』ってくらい幸せだぁ。」

「そうだな。でも死んでもらっちゃ困るぞ。」

「何で?」

「残された僕らは犯罪者さ。ここでは高校一年は犯罪者対象なんだって。」

歯を磨いて布団を敷き終えて、僕らは雑談に入る。

「あはは。その時はあの世まで一緒に来てよ。」

「上等だ。であったからにはどこまでもついていってやるよ。」

僕は言いながら電気を消す。そして自分の布団にもぐる。布団の暖かさもあったが、会

話にもぬくもりを感じた。

「そうだ。前の目標が『三人で日本へ行こう』だったじゃん。でもそれは達成したか

ら、新しい目標を決めないか?」

「そんなの決めなくても決まっているさ。」

その言葉の意味は言わずと以心伝心で伝わった。でも僕は柄にも無く意地悪に聞く。

「どんなの?」

「『三人で日本一になろう』とか?」

陽もわざと変な事を言う。皆それぞれ少し興奮している。

「そんなの決まってる・・・。それは、」

「「「『三人暮らしでずっと一緒』だな!」」」

三人は綺麗に重なって答える。そしてそれと同時に笑い出す。難しい目標なんていらな

い。傲慢な欲求はいくらでも沸いている。でも僕らにはそんなものはいらない。ただず

っと一緒にいられてともに歩んでいけるだけでいい。消灯時間はとっくに過ぎている。

それを誰も口にしない。たぶん今夜は興奮してなかなか眠れないだろう。
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