佐々倉のカノジョ。



心臓の音が聞こえないように後退りするものの、ほんの数ミリしか下がれない。


嵐くん、黙ったままだし……。


「嵐くん…?」


「やっと帰ったかアイツ」


あ、なにしてるのかと思ったら、外の様子見てたんだね。


あの、ドアについてるちっちゃいガラスから。


「いいの?和哉くんも一緒に来てくれたのに…」


「今は静かにしてほしい気分なんだよ」


…なんとなく事情、察しました。


パッと嵐くんが離れたかと思うと、


「んなとこ突っ立ってねぇで来たんならこっち来いよ」


「あ、うん…。お邪魔します…」


靴を脱いで、ふと気づく。


あれ、これって二人きり、だよね?


と、いうか、完全に勢いで来ちゃったけど、よく考えたら嵐くんは彩佳の彼氏なわけで。


浮気?とかに嵐くんなっちゃう?


あれ、まだこれはセーフ?


「なに一人で百面相してんだよ」


「か、帰る!!」


「はっ!?」

あわわ、混乱してきた。
落ち着こう……そして今すぐ帰らなきゃ。


靴を履き直そうとする私を、嵐くんが引っ張っていく。


「やっ、あの、あや……」

「アイツの名前を出すな」


思わずビクッとするような低い声。

恐る恐る表情を窺おうとすると、顔を逸らされてしまった。

彩佳と、なにかあったのかな……。


そういえば今日、彩佳も休みだったし。




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