恋をしようよ、愛し合おうぜ!
「期限は最低5年。その後日本に戻るか、他の国に行くかはまだ分かんねえ。とにかく、今はまだおまえと結婚できねえから、おまえの分の滞在許可取ったりとか、そういった諸々のサポートを会社側ではできねえんだ」
「あ・・・そぅ。真吾くんが渋ってる理由はそれだけ?」
「ああ。いや。・・・俺はおまえと離れたくねえ。やっと一緒になれたんだしよ。だがおまえはここで仕事の基盤を築いてキャリアを伸ばしてる最中だ。それを止めて、俺についてきてほしいと言いたいが・・・あっちへ行けば、今おまえがしてるような仕事はできねえと思うし。だからよ、おまえがここにいたいって言うなら、それでも・・・いい。急な話だし、この部屋も借りとく。もちろん家賃は俺が払う・・・くそっ、何でこのタイミングで国外転勤なんだよ。やっぱ俺、この話断った方がいいと思うか?」

部長に話を聞いてから、そして運転しながら車ん中で考えついたのは、そういうことばっかだった。
とにかく、今の俺の頭ん中は、グチャグチャでメチャクチャだ。
そんな混乱した思いが顔にも出てると思うが、そんなんどうでもいい。
なつきと話して解決策を導き出したい。

俺はすがるようになつきのほうを見ると、なつきはニッコリ微笑んでくれた。
それだけで大丈夫だと思えてくるのは、すげー不思議だ。
こういうとき、なつきは頼りになる。

そしてなつきは、その華奢な手で俺の頬にそっと触れてくれた。

「真吾くんが行きたくないと思うなら、断ってもいいと思う。ただね、私がいるからっていう理由だけなら行ってほしい。確かにミュンヘンに行けば、仕事は制限されるし量も減ると思う。それでも私だって、真吾くんと一緒にいたいって思う気持ちが最優先だよ。あのね。私、あの人と一緒にやっていけないから別れたの」

となつきは言うと、俺の頬をひとなでして手を握ってくれた。

「場所は関係ないの。その点はあの人に何度も説明した。つまり、私はどこにいても生きていけるの。でもね、真吾くんが好きだって分かってからは、あなたと一緒にいる場所にいたいの。そうじゃないとダメなの。だってそこが私の居場所だから」
「なつき・・・」

やべえ。俺・・・泣きそうだ。

たぶんなつきもそれが分かったと思う。
なつきは俺の背中を優しく撫でてくれた。

「出発はいつ?」
「・・・俺が承諾すれば、会社が就労ビザの申請をする。それが降りるまで、長くて1ヶ月くらいかかるらしい。出発はそれからだ。なっちゃん」
「はい?」
「会社でサポートできねえ分は、俺がサポートする。おまえに不自由させねえ」
「私の仕事って、基本的にどこにいてもできるから大丈夫だよ。ありがとね。あー、ミュンヘンかぁ。ドイツ行くの初めて!ドイツ語の挨拶くらいは勉強しておいたほうがいいよね」と話すなつきは、すごく活き活きしてるように見えた。

何事も楽しむのは、こいつの特技だよな。
気づけば俺も、こいつと一緒にニコニコ笑っていた。

・・・さっきまでの不安が、完全に消えている。
なつきのやつ、二人にとってベストな解決策を、あっという間に導きやがった。

てか、なつきは俺以上に俺のことを知ってるんじゃねえか?
そんなイイ女、ぜーーーったい手放すことなんざできねえし!

「なつき」
「なぁに?」
「おまえが再婚できるようになったら、俺たちすぐ結婚しような」

と俺が言うと、なつきはくりっとした目をさらに見開いて、俺を見た。
さっきまでニコニコしてたのに、今にも泣きそうな顔になっている。

「そ、それ・・・プロポーズ、ですか」
「あ、そーだな。てか俺、おまえとはマジだって言っただろ?転勤の話がなくても、おまえとはいつか結婚すると決めてたし。てことは、この話があったおかげで、俺たち結婚するのが早まるんだよな?っておいなつきーっ!」

いきなりなつきに抱きつかれた俺は、危うく体制を崩しそうになったが、どうにか持ちこたえることができてホッとした。

「・・・わりい。予定外だったからよ。全然ロマンチックじゃなかったよな。指輪も用意してねえし」
「指輪はいらない。一時期金属アレルギーになってから、アクセはほとんどつけなくなったの」
「今は」
「つけれるよ」
「じゃあ近いうちになんか買おうぜ。俺とおそろいで、身につけることができるもん」
「・・・って言ったら、やっぱり指輪かな」
「よーし決まり!あー、ホッとしたせいか、急に腹減ってきた」
「そうだね。晩ごはん食べよ!明日はお祝いにちらし寿司作ろうかなー。あ、真吾くん、明日はビール買ってきてね。それともワインがいいかな。ドイツって本場だよね。あとサッカー強いし!バイエルン・ミュンヘンの試合観に行こ・・・・・・」

こいつが好きだって気持ちが溢れ出てきた俺は、なつきがしゃべってる最中、ガマンできなくなってついキスしてしまった。

まさに今の俺は、なつきと恋愛モード真っ盛りだ。

「なっちゃん、愛してるぜ」
「うん。私も真吾くんのこと、ずっと一緒にいたいくらい愛してる」


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