不機嫌なアルバトロス
い、いいのかな?

こんな展開を受け入れて。


戸惑い過ぎて返事すらできない私をどう勘違いしたのか、彼は、


「直ぐ近くなので煩わせはしませんよ。」


と言って、また腕時計に目をやる。その仕草に見惚れていると、顔を上げた彼とばっちり目が合った。



心臓が跳ねて、動機息切れして、どうにかなりそう。


あぁ、やばい。


もうくらくらしちゃう。



でも―、でも駄目。



またどうせいつもの結末が待っている。



これはその第一歩。


傷は浅い内に済ませたい。


もうだってこの人がどうであれ、私絶対好きになっちゃう。



ここは断るのよ、花音!



意を決して口を開きかけた私の心の中の葛藤を知ってか知らずか、彼は不敵に口角を上げてー




「さ、行きましょう。櫻田花音、さん。」




私より先に魔法をかけた。



駄目。



そんな甘い顔して、私の名前を呼ばないで。



5年居ても覚えてくれない人達ばかりの中で。



どうして今日出逢ったばかりの貴方が、私の名前を呼ぶの?



がっかりはしたくないの。



期待させないで。



でも所詮私はアホウドリ。


優しくされると誰にでも簡単に捕まってしまう。


正直な胸は理性とは裏腹に高鳴ってしまう。
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