不機嫌なアルバトロス
「え…?」
中堀さんに見惚れそうになるのをなんとか堪え、彼の背後に目をやった。
本当だ、近い。
こんなすぐ傍に隠れ家的な場所あったっけ。
うちの会社から徒歩5分圏内だ。
ていうかこれ本当に店なのかな。お店に見えないんですけど。
もしかして、世界稀に見る超が付く良い人中堀さんは、実は世界稀に見る極悪人で、私を悪の組織に売ろうとしているの?
そこまで思考が飛んだところで、くくくっという笑い声が聞こえてはっとする。
見ると中堀さんが袖口で口を隠しながら肩を震わせている。
「…すみません。笑っちゃって。…さっきから表情がコロコロ変わるのでつい」
そう言うと、今度は隠すことなくふっと笑う。
「本当に、食事する所ですから、安心してください」
かーっと顔に熱が上ったのがわかった。
自分でも、考えていることが顔に出やすいという自覚はある。
今だから愛想笑いも上手くなったけど、入社当初はお局に毎日のように叱られていた。社会っていうのは世知辛いものなんだとよく思ったものだ。