一つ屋根の下


父は、蒼空がスイミングスクールに通いたがっていることにはうすうす気付いていた。

"講習者募集中!"水色の背景に派手な文字が入ったチラシを、寂しげに見つめている事も知っていた。

何度も訊こうとした『やってみる?』は毎回、月謝の欄を見て、飲み込んでいた。

父は、幼い蒼空をぎゅっと抱きしめる。

罪悪感に埋もれる父に追い討ちをかけるように、母が死んだとき以来一度も我が子を抱きしめていなかったと気づいた。

蒼空の体が一瞬ビクッとこわばったが、すぐに肩をなでおろす。

『気付いてやれなくて、ごめんな。
水泳、やってみる?』
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