いろはにほへと
「…私の話をよく聴いてください。私を形容する言葉は地味で暗くて気配がない、です。一人でいることが好きですし、表情がないので、波風の立たない湖面と陰で呼ばれています。つまり―」





ミーンミーンと、蝉さえも暑さを苦痛に感じているような、鳴き方をしている。



その中で。



広い屋敷の黒い床の上。



突然現れた茶髪男と正座をしながら向き合って。



姿勢を正した状態で真っ直ぐに伝える。





「貴方みたいな人間は苦手です。ですから、お断り致します。帰ってください。」





深々と頭を下げた。





なのに―。





「いいねぇ!」





何故か、明るい声が、下げた頭に降って来る。





「益々、気に入ったよ!ここが良い!よろしくね!!」





「・・・・・あの、今の、私の話・・・」




「ん?聞いてたよ?ちゃーんと聞いてた。でも、ね?」





茶髪男は、相変わらず目は隠れた状態で勢い良く立ち上がり、人差し指を立てた。





「二人の方が、絶対楽しいって!一回経験すると、世界観変わるかもよ!ひと夏のけいけ~ん!なんちって。」





私は、正座したまま、顔を上げてぽかんと茶髪男を見つめた。


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