電波ジャック~ハロー・ラバー~


「ちぃ―っす」

何て言ってるか分からない言葉が、放課後の挨拶だった。

ガラリと引き戸を開ける。
足を踏み入れるか否やのタイミングで、同じ「ちぃーっす」が帰ってきた。

安物の革張りのソファに、男が一人座っている。
部屋にある気配はそれだけ。

いつも通りだ。


俺は入り口近くの机に荷物を置くと、ソファに座る男の前に腰を下ろした。

「お疲れ」
「おう」

明るくて愛想のいい返事が返ってくるも、男の意識は、手元にある携帯ゲームに集中していた。

「セイ。それ新作?」
「あぁ。今日買った。学校遅刻して」

あぁ、やっぱり。
聞こうと思っていたことを言われ、俺は苦笑する。

「マサは?学校、どうだった?」
「別に。っつうか、隣のクラスだろ?」
「わりぃ。買ったらソッコーやりたくなってさ。サボった」

だと思った。
こいつは、良くも悪くも自分中心で、やりたいことしかしない奴だ。
が、俺はそこを気に入っている。


RPGらしい、綺麗な音楽。
聞き覚えのあるその曲は、セイが常に俺に勧めてくるゲームの曲だ。




俺は小さく息を吐いた。

セイに呆れたからか?
いやいや。
熱中しているところに話しかけないといけない、非常に気が引ける状況に、だ。
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