冷たい手
『前の彼女』ダイチの手帳には、そうメモされていた。

「私は、この服で良いですよ。それとも、ダイチさんがこの服だと困りますか?」

ミカもダイチも困った顔をして、うつむく。


ダイチに名案が浮かんだ。形だけでもそうなっていれば良い。遠慮されない考えがあった。
手帳に『ミカが彼女』と書き込み、それを見せた。

「私が、彼女なら…」

お互いに見つめあう。お互いに、次の言葉を探していた。
先に切り出したのはミカだった。

「私がダイチさんの彼女になったら、遠慮しないと思いますか?」

遠慮しないと思いますか。
確かに、彼女という形になったとしてもそれは変わらない。
それでも、ダイチは自身満々にうなずく。

『君は自由に』

ダイチの手帳にはそう書かれていた。
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