【短編】穴
途中、渋滞もあったけど、予定通り昼前には、おばあちゃんちに到着した。 


――バタンッ


と、ドアを開けると、清々しい空気が広がっていた。 


東京では、耳を塞ぎたくなる程に煩い蝉の鳴き声も、不思議なことに気にならない。 


むしろ、心地よい音色だった。 


「まぁまぁ、遠いところよく来てくれたわね」


日除けなのか、頭をすっぽりと被ったおばあちゃんが、農作業着姿で出迎えてくれた。


「「こんにちは!」」


「亮ちゃんも美奈ちゃんも大きくなったね」


おばあちゃんの背をゆうに越したお兄ちゃんと私とを交互に見つめながら、温かい笑顔を向けてくる。



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