Again
ホテルでは全く眠れず、パソコンを借りて、アパートを探した。急いては事をし損じると言うが、もう待ってはいられない。



目ぼしい物件をプリントして、メールで問い合わせる。仕事終わりにでも物件を見に行く予定でいた。

広報課に行くと、支配人が来ていた。





「おはようございます」





葵と久美が並んで挨拶をする。





「ああ、おはよう。昨日はご苦労だったね。桃香さまは大層喜んでおられたよ」

「はあ~、良かったです。ね、名波さん」





久美は本当に安心したように胸に手を当て、深く息を吐いた。





「ええ、本当に」





満面笑顔の久美に対し、葵は、引きつった笑いになる。





「それで、桃香さまが二人にお礼をしたいそうだ。チェックアウトをする前に、お部屋にお伺いして下さい」

「わかりました」





これで最後。これで顔を合すのは最後。大事なゲストだから粗相のないように。昨日の出来事があっても顔には出さない。私はプロだからと葵は唱えていた。



桃香が指定した時間に、スイートルームに葵と久美は向かった。

ドアベルを鳴らし、応答を待つ。少しすると、ドアが開いた。





「いらっしゃい、待っていたのよ?」

「おはようございます、桃香さま」





二人で同時に同じ言葉を挨拶してお辞儀をした。葵の気持ちは複雑だ。





「さあ、入って」





にこやかに会話をする桃香は昨日のことは全く感じさせなかった。

帰り支度は済んでいて、ソファの傍にはトランクが置いてある。コーヒーテーブルにラッピングされた白い紙袋が二つ置いてあった。





「これ、心ばかりのお礼。私のプロデュースした化粧品とお二人に似合いそうなスカーフよ。気に入ってくれると嬉しいわ。どうもありがとう」





そう言って、桃香は一人ずつに手渡した。久美はもちろん、飛び上がる程喜んでいる。

葵も喜ばなくてはいけない、気持ちを奮い立たせるがうまく行かないでいた。





「ほら、葵もお礼をいって」

「え? は、はい。桃香さま。お気づかい頂き、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

「いいのよ。イベントも成功してとても嬉しかったの。ホテルはプライベートでも利用させていただくわ」

「恐縮です」





勝ち誇った顔に見えた。葵は、受け取った品物を投げつけたい気分だった。だが、子供じみた行為は、自分を下げるだけだ。葵はぐっと我慢をした。

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