Again

二日間の会議も終わり、夕食までの時間を自由時間として、名波商事の面々はそれぞれ、沖縄の地でバカンスを楽しんでいた。





「名波商事様はこれからご夕食までを自由に過されるそうです。会議後の時間を楽しんでいただくために、おもてなしを忘れずにお願いします」

「はい」





フロントのメンバーを集め、支配人が連絡事項を伝えた。



部屋に籠っていない限り仁と出くわす確率は高くなる。だが、葵は逃げないと決めていた。いつものように仕事をし、午後の休憩に入るときにルームサービスでコーヒーの注文があった。





「休憩前に悪いけど、名波様のお部屋までお持ちしてくれないか？」





フロントで電話を受けたスタッフが葵にそう言った。





「えーっっ！！」





葵は仰け反るほどびっくりした。覚悟を決めた瞬間に仁に引き寄せられるように、頼まれる。本当に逃げられない。





「な、なんだ？　そんなにびっくりすることか？」

「うっ……」





葵は、ワゴンを押し仁の部屋前まで来て深呼吸をした。





「はい」





ベルを鳴らすと、中からは仁の返事が聞こえた。





「ルームサービスでございます」

「葵！」





拒否していた葵は、なんだかバツが悪い。

声で直ぐに葵だとわかった仁はドアを乱暴な程に開ける。





「失礼します」





冷静にと自分に言い聞かせ、ワゴンを部屋に運ぶ。





「お入れ致しますか？」

「え？　あ、ああ」





葵はカップにコーヒーを入れ、セッティングをした。





「お待たせいたしました。では、これで失礼いたします」

「待って、葵」





事務的に終わらせようとしていた葵だが、そううまくは行かない事はわかっていた。仁が葵を引き止めた。





「ちょっとだけでいい、仕事中に悪い。少しだけ話す時間をくれないか？」

「……はい……分かりました。これから休憩なので、少しなら……」

「ありがとう」

「……」

「……」





気まずい雰囲気の中、仁が葵をソファへと座らせた。





「髪を伸ばしたんだね……いつからこのホテルに？」





ショートカットだった葵の髪は背中まで伸びていた。





「ちょうど一年になります」





仁に言われ、髪をいじった。





「そうか……元気にしているのだろうか、何処で何をしているのかと気になっていた。葵、俺は後悔している。どんなに葵が拒否をしても無理やり会ってでもちゃんと話をするべきだったと……俺は、葵が必要なんだ」

「……パリ、楽しみだったのに……仁さんと……」





葵は、手をギュッと握りしめた。





「葵？」

「仁さんが誘ってくれたパリ、楽しみにしていたのに！　一人で飛行機も心細かった……タクシーだって……ホテルに着いてからだって！　観光なんかしたくなかった。そんな気分じゃなかったけど、帰国してからの皆への言い訳がなりたたないから仕方がなかった。一生懸命に仁さんのとこに行こうと頑張ったのに！　あんなこと、何も無かったなんてあんな場面を見て信じられるわけがないじゃない！　ひどい、酷過ぎるわ！」





今まで鬱積していた思いが涙と共に出て、仁を責め立てる。しゃくりあげながらも、自分の思いを仁にぶつけている。