Again
仁が寝ている間に、葵は、風呂に入って部屋着に着替えていた。眠っている仁の氷枕を変え、汗を拭く。





「これだけ汗が出ていれば大丈夫ね」





見ることのなかった仁の寝顔を見て、結婚生活を振り返る。毎日、緊張していて、寛げるのは職場だった。たまに見せる仁の笑顔に、胸が熱くもなった。





「本当にずるい人」





憎たらしさに、仁の高い鼻をピンと軽く指ではじく。





「う……ん……」





仁は、目をギュッと閉じ、起きそうだ。





「あ、やばい」





じっと見ていると、何度か目を開けたり閉じたりした後、しっかりと目を覚ます。





「葵」

「起きた?」





顔色も良くなり、額に手をあてると、熱は下がっていた。





「良かった、下がってるわ。長引いたらどうしようかと思った」

「看病のおかげだ」

「薬を飲ませただけよ」





葵の答えに、仁は笑う。





「シャワーでも浴びるか」

「大丈夫? ふらふらしない?」

「大丈夫だ。汗かいて気持ちが悪い」





そういうと、のっそりとベッドから出て、立ち上がる。





「気分が悪くなったら呼んでね」

「わかった」





仁がシャワー室に行くと、ホテルに来る途中で買った、フルーツを切る。カラスの行水だと言っていた仁は、葵がフルーツを切り終わると同時に風呂から上がって来た。





「相変わらず早い」

「まあね」

「フルーツでも食べて」

「ありがとう」





籐製のソファに座り、フルーツをかじる。





「ああ、うまい」

「良かった、元気になって」

「そう言えば、逆もあったな。葵が熱をだして」

「そうね。仁さん、仕事を抜け出して来て心配してくれたわ」

「何も出来なかったさ。オロオロしてばっかりで」

「そんなことない、食事も用意して、介抱してくれたもの」

「また、具合が悪くなったらどうする? 俺は、一人で唸ってるのか? 高熱でうなされて死んじゃうかもしれない」

「おおげさな」





突拍子もないことを言いだす仁に、葵は呆れる。





「苦しんで、うなされて気を失ったら? 一人で何もできずに」

「仁さんってば、縁起の悪いことを言わないで」





やめない仁に、葵は、怒る。





「一人で寝て、苦しくて、苦しくてのたうちまわってたら?」

「仁さん! いい加減にして!」

「だから! 俺の傍にいて。離れず傍にいて欲しい」

「……」





仁が葵を見つめる目が、切なく、そして、葵を心の底から愛している眼差しに見える。

仁は堪らず、葵の腕を引っ張り抱きしめる。





「俺には葵しかいないんだ、葵がいいんだ、葵じゃなきゃだめなんだ。葵の笑顔がみたい。俺は泣かしてばかりで……」

「……私……」

「葵……俺はもう限界だ」





もう、言葉はいらなかった。カーテンを開けた窓からは、綺麗な星空が見える。海の音が心地よく、静かに目を閉じる。その先に何があるか、葵はもう分かっていた。



重なる唇が熱い。仁の体温より高く感じる。気持ちが高揚している葵と交わり、更に高くなる。仁が葵に与えるキスは、いつもと違った。葵は、その意味がわかる。



優しい手が葵の殻を剥いでいく。一枚、また一枚とそれは優しく丁寧だった。



聞こえるのは海が波打つ音だけ。そして、優しい吐息。



見つめられる視線に葵は熱くなる。腕を伸ばせば、抱きしめ返す逞しい腕。





「仁さんの体、熱い……」

「熱があったからな」





その熱も葵に移ったようだ。熱い、熱い痺れが全身をめぐる。目を閉じても葵はもう、桃香のことを思い出さなかった。思い出すのは、仁の顔だけ。目の前にいる仁だけだ。



こんなにもひと肌が熱いと感じたのは初めてだ。この肌を合わせた熱さ、高鳴る心臓が、全身に血流をおくることに必死だ。



見つめ合えば、瞳の奥にある欲望のまなざし。仁の葵を見つめる強い目に葵は逆らうことなどできない。

繋がる部分から満たされる感情。男としての顔を見せる仁。その全てが、葵の冷たくなっていた心を溶かしていった。

< 162 / 163 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop