Again
こっそりとリビングを覗くと、仁は本を読んでいた。



「読書ね」



ぼーっとしていたら、どうしようかと思ったが、本を読んでいる様子に、葵はなんだかほっとしている。自分の姿を見せると、話しかけられてしまうのではないかと、避けるようにして、こそこそと部屋を移動する。話しがしたいとは思っているのだが、会話が続く気がせず、避けてしまっている。沈黙の空間が息苦しかった。仁が傍にいないのに、いつでも気配を感じ、緊張を強いられた。

週末に溜まっていた家事を済ませ、部屋に籠る。それが今の葵の休日の過ごし方だ。住まいのある場所では、外に出れば、時間を潰すには事欠かない立地だ。しかし、家を出る時に黙って出るわけにもいかない。仁に声を掛ける手間、勇気、緊張が面倒で、自室に籠る週末になっていた。しかし、部屋にいても常に仁の気配を感じ、疲れてしまっていた。

サンルームは、日差しが入り込み、少し窓を開けたところから風が爽やかに入り込む。





「うーん、気持ちがいい」





フローリングに大の字に寝転がり、ゴロンゴロンと転がる。葵は、真っ青な空を見ながら、物想いに耽る。

仁はどういう風の吹き回しで、一緒に行くと言いだしたのだろう。仁もこの状態がきつくなってきたのだろうか。

結婚をする前、そうあの時のように気さくに話せていたらもっと違うに違いない。しかし、結婚生活を始めたとたん、仁はよそよそしかった。





「今日の買い物を書き出さなきゃ……ふぁあ、眠い」





サンルームの穏やかさに、欠伸がでる。

じっと空を見つめていると、自分の悩みなど小さなことだと思ってみたりするが、そうでもないことを現実の葵は分かっている。毎日生活しているのだ、ちっぽけな悩みだとは思えない。周りにいる人たちが全員自分より幸せに見えて仕方がない。

葵は、空を一点集中して見ているうちに、自然と瞼が下り、そのまま寝てしまっていた。

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