読書女子は素直になれない
第13話

 雛からのアドバイスを受けた千晶は、その日のうちに勇気をもって行動に移す。
(雛先輩の言う通り、ちゃんと向き合って話すべきだったんだ。早く話したい!)
 やきもきしながら一階のロビーで待っていると、エレベーターから蓮が現れ、隣には美優を引き連れている。
美優の存在に一瞬ブレーキが掛かるが、その障害も乗り越えて蓮に向かっていく。正面に回り込むと少し驚いた顔をして蓮は止まる。
「五十嵐さん?」
「鷹取君、ちょっとお話ししたいことがあるんだけど、お時間いいかな?」
 突然現れた千晶に美優は不機嫌な顔をして割り込む。
「ちょっと、五十嵐さん何の用? 話があるなら今ここで聞くわ」
「鷹取君と二人きりで話したいから、中村さんは席を外してほしい」
「何よそれ。私に聞かれてマズイ話ってことよね? なら尚更お断りよ!」
「中村さんに聞いてない。鷹取君、私、ちゃんと貴方と話したいの。ダメかな?」
 自分を無視して蓮と話され美優は顔を赤くする。
「アンタ、いい加減にしなさいよ! 鷹取君は今から私と……」
「悪い、中村さん。夕飯キャンセルするよ。今度埋め合わせするから」
 有無を言わせぬ蓮の言葉に美優は唖然とする。
「どこで話そうか?」
「え、あ、じゃあ、適当な場所で」
「分かった。じゃあ行こうか」
 並んで去って行く後ろ姿を美優は苦虫を噛み潰したような顔で睨んでいた。

 桜の名所となっている会社近くの公園へと向かうと、途中の自販機で買った紅茶を片手にベンチに座る。夕方の時間帯だと人はちらほらとしか見られない。
(鷹取君と二人きり、ちゃんと落ち着いて話すとなると緊張するわ。でも、こんなチャンスなかなかないし、言いたいことはしっかり言わないと)
 紅茶の蓋を開け一口飲むと思い切って話の口火を切る。
「あの、今日はごめんなさい。突然こんな連れ出し方しちゃって、迷惑だったでしょ?」
「ん? いや、びっくりはしたけど迷惑じゃないよ」
「でも中村さんと食事があったんでしょ?」
「ああ、いいんだよ。正直言うと中村さん苦手だからな」
 苦笑いする蓮を見て千晶は疑念を抱く。
「え、でも昨日デートしてたでしょ?」
「あれは単なる仕事の付き添い。仕事が終わって昼ご飯食べてただけ。五十嵐さんの方こそ翼と上手くいってるみたいじゃないか」
「あれは単なる買い物の付き添い。買い物が終わって昼ご飯食べに行っただけ」
「それを世間ではデートって言うんじゃないのか?」
 責めるような眼差しを向けられ千晶は押し黙る。
(確かにデートと言われてもおかしくない。普通に楽しかったし。でも、異性としてどうとかでもないし、特段の感情も持ってない)
「後藤君とは単なる友達よ。それ以上でもそれ以下でもない。それとも鷹取君、妬いてるの?」
 からかい含み笑いしながら千晶は訊くが、蓮は真剣な顔で切り返す。
「妬いてるよ。当然だろ?」
 素で返され千晶の中で時が止まる。
(妬いてる、って。つまり、鷹取君は私を……)
 胸の奥がドキドキし始め、落ち着いていた緊張感がどんどん大きくなっていく。
(雛先輩の言った通りだ。鷹取君はまだ私のことを。嬉しい! でも、まだ好きだとしたらなんで急に音信不通なんかに……)
 嬉しさと戸惑いを胸に抱きながら千晶は口を開く。
「あの、鷹取君に聞きたいことがあるんだけどいい?」
「うん、勿論、何?」
「前も聞いたけど、何で私と連絡取れなくなったの? ちゃんと理由が知りたい」
「それは……、言えないよ」
「言えないのは私のせい?」
「いや、違う。五十嵐さんは悪くない。単に俺自身の問題だから」
(過去に何かあったんだ。私にも話せないくらい辛いことが……)
「どうしても知りたいって言ってもダメかな? 私、鷹取君のことちゃんと知りたい」
「……、ごめん、どうしても言いたくないんだ」
「そう、これだけ言ってもダメなんだ。なら無理には聞けないよね」
「ごめん」
「ううん、いいよ。私の勝手なお願いだし。じゃあ、代わりに一つ違うこと聞かせて?」
「ああ、いいよ」
「終業式の日、公園のベンチでした約束は覚えてる?」
 胸の鼓動が早くなるのを感じながら、しっかりと蓮の目を見つめ訊く。蓮も真剣な表情をして千晶を見つめていた。

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