初恋だって…いいじゃない!―番外編―
歩美は和也の部屋に、毎週のように出入りしている。
掃除やら洗濯やら食事の支度やら、ほとんどが歩美の役目だ。歩美の両親が亡くなって家が落ちつくまで、和也のマンションに居候していたときの名残というべきか。

和也の仕事は家を空けることが多い。そのため、放っておけば食事は外食かコンビニ、洗濯はクリーニングで下着は使い捨てとかになってしまう。

甲斐甲斐しく世話をしていると、
『わたしってば恋人、ううん、奥さんみたい!』
なんて、ついつい浮かれることもある。

でも、冷静になって考えると、ふたりきりで部屋にいても甘いムードになることなど皆無だ。部屋に泊まると言っても、『勝手に好きなところに寝ればいい』と返事が返ってくる。


「完っ全に家族だもん。今は仕事が忙しいし飛んでるほうが楽しい、とか言ってるけど……」


それは歩美の成長を待ってくれているわけではなく、本気で仕事が楽しいのだと思う。
突然、綺麗な女性を連れて来て、『こいつ、俺の嫁さん』なんて紹介される気がする。そのときは、合鍵は返せと言われるだろう。
想像するだけで切なくなり、歩美は大きなため息をつく。


「でも、好きなんでしょ?」


雪絵にしんみりと聞かれる。


「ん……嫌いになんてなれないよ」

「じゃあ、さ。ふたりきりになったときに迫ってみれば?」


歩美は慌てて手を振った。


「そんなことできないってば。二度とくるなって言われたらどうするの!? ふさわしくないのは充分わかってるから、妹の立ち位置で我慢しとく……」

「でも、もったいないよねぇ。結婚とか考えずにいろいろ教わるだけなら、高千穂さんくらいの大人のオトコが一番よさそうなのに。だって同じ年の男子って、がっついてるか、オロオロするかのどっちかだもの」


それは雪絵の言うとおりかもしれない。
うなずきなら、歩美はストローでカフェオレをクルクルと回した。
すると、歩美の同意を得たと思ったのか、雪絵は調子に乗り始める。


「下心見え見えで、家に行っていい? なんてゼッタイに聞いてきたりしないだろうし、ラグジュアリーホテルとか予約して、さっと連れて行ってくれそうだもんねぇ。ああ、どっかにいないかな? 有無を言わさずに奪ってくれそうな、高千穂さんレベルのオトコ!」

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