初恋だって…いいじゃない!―番外編―
「雪絵ちゃん、それって恋愛したいのか、素敵な初体験がしたいのか、よくわかんなくなってるよ」

「どっちもに決まってるじゃない! 歩美だって、高千穂さんに『卒業記念にスイート予約した』って言われてごらんよ。お兄さんに嘘ついたってお泊まりするでしょ?」

「そ、そんなこと……するかも」


しない、とは言えない。
自分からは迫れないけど、もし和也から求められたら、間違いなくOKする。


「やっぱ、歩美でもするんだ」

「だ、だって、なんか憧れるじゃない!! 一流ホテルのスイートルームから眺める夜景とか……綺麗なんだろうなぁ」


万にひとつ、億にひとつでもスイートから夜景を眺めつつ、和也に『歩美が欲しい』とか言われたら、ソッコーで捧げてしまうと思う。


「でも、歩美の場合、高千穂さんのマンションで言われても、きっとOKするよね?」

「そっそれはっ……でも、初めてはスイートがいいなぁ。あ、露天風呂のある温泉旅館でもいいかも……」


ふたりで温泉に浸かりながら、満天の星の下で和也に抱き締められて……。


(なーんちゃって、あり得ないって! あり得ないけど、でも……あったら超幸せかも)


「温泉旅館だけはゼッタイにイヤ!」


雪絵の剣呑な声に、歩美のウレシ恥ずかしい妄想が打ち切られる。


「別に箱根温泉じゃなくてもいいんだから……」


たしか、雪絵の実家は箱根にあったはずだ。


「草津でも熱海でも湯布院でも温泉だけはイヤなの!」

「……さすがによく知ってるよね」


歩美が半ば感心しながら言ったとき、後ろから声が聞こえた。


「なんだ歩美、卒業記念に温泉でも行くのか? 女子高生のわりに渋い好みだな」

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