夜と紅と蒼と……
テーブルの向こうに横たわるアキラの顔を覗きこむと、すっかり寝込んでしまっている。
蒼太は寝室から毛布を持って来てアキラにかけると、再び寝室へ戻り、窓を開け、独りベランダへ出た。
「ふぅ」
夜独特のヒヤリとした空気に触れ、小さく息を吐く。
空を見上げるが、雲があるのか星は見えない。
雲の隙間から、少しだけ顔をのぞかせる月が、紅葉を思いださせ胸を苦しくさせた。
『どうしているだろう』
紅葉の両親が命に別状ないということはアキラに聞いた。
それを聞いてとりあえずは安心した。
久しぶりの両親との時間を大事にして欲しい。
だが、その反面。
早く戻ってきてほしい、一緒にいたいと思う気持ちも強くある。
『電話なんて、できませんよ』
声を聞いてしまったら、気持ちが押さえられなくなりそうで怖い。
自分のエゴで紅葉を困らせてしまいたくはなかった。
「ずっと、待ってますから」
自分の気持ちを押し殺すように、そっと、口に出してみる。
空で淡い光を放つ月だけがそれを聞いていた。