夜と紅と蒼と……
楽しそうな兄弟を見ながら、そんな、自分には叶わなかったことをぼんやり考えていると。
「紅葉? どーしたの?」
緑が急に大きな声を出して、紅葉は我にかえった。
「何ぼーっとしてんの? さっきから呼んでるのに」
ぷうと、頬を膨らませている。何度も紅葉を呼んでいたらしい。
「あ、ごめん。ごめん」
頭を掻きながら謝ると、すぐに緑は笑顔に戻る。
「あのさ、雨も降ってねーし、公園いこーぜ!!」
そしてそんなことを言い出した。
「えっと……」
急な誘い。緑と遊ぶのは楽しそうだし行きたいのはやまやまなのだが……さて、どうしたものか。
返事に困っていると、すかさず蒼太が助けをだしてくれた。
「緑、紅葉さん昼間は外にでれないんだ」
「なんで?」
「お日様にあたると、溶けちゃうんだよ」
少し冗談まじりに説得を試みる。すると緑は一瞬不思議そうな顔をしたかと思えば
「吸血鬼みたいだな」
次の瞬間には大真面目な顔になって、そんなことを言う。
緑の反応がおかしくて、紅葉は思わず吹き出してしまった。そのままけらけら笑いながら緑に合わせてみる。
「確かにアレは、あたしらがモデルだね。ニンニクも十字架も大丈夫だけど」
「ふーん。なあなあ全然でれないの?」
緑は半分本気で信じているのではないかと思わせる神妙な顔で頷いたが、それでも諦めがつかないのが、一生懸命尋ねてくる。
『弱いなぁ……』
紅葉はそんな緑をじっと見つめた。
こんなふうにねだられてはなかなか断わりづらい。まあ、いいかと、心を決める。
「出れないこともないけど」
「紅葉さん無理しなくていいですよ」
隣で見ていた蒼太が心配気に言ってくれたが
「うんにゃ。いいよ大丈夫」
心配ないと、手をひらひらとふってみせる。
紅葉の返事を聞いて、緑の顔がたちまち明るくなる。早く早くとすぐにでもせかしそうな緑の鼻先をぴん、と弾いて紅葉はにぃ、と笑った。
「ちょっと準備がいるけどね」