心を全部奪って
「ここなんだ」


階段から一番近い201号室。


近くて助かったと思った。


「じゃあ、ここで失礼します。お疲れ様でした」


軽く頭を下げて、早々に退散しようとしたら。


「待って」


霧島さんに呼び止められた。


「女の子に送ってもらうなんて、なんかすごく情けないよ。

普通は逆だよね?」


「そんなこと、気にしないでください」


「でも、もう遅いし。

一人で駅まで歩かせるのは心配だな」


「大丈夫です。

なるべく明るい道を歩きますから」


「うーん…」


何か考え込んでいる様子の霧島さん。


「ちょっと上がって行ってよ」


「え…?」


「お茶くらいしか出せないけど。

少し時間をくれたら、ちゃんと酔いを冷まして駅まで送るから」


「で、でも…」


一人暮らしの男性の部屋に上がるのって、いくら同僚でもまずくないかな。


「いいから。ねっ?」


私のジャケットの袖を引いて、ガチャンとアパートを開ける霧島さん。


気がつけば私は、彼の部屋の中に入ってしまっていた。

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