心を全部奪って
日高の顔に自分の顔を近付け、ギロリと睨み上げた。


「確かに不倫は悪いことだ。

決して許されることじゃない。

だけどな!

誰かをおとしめるために、人の純情な気持ちを利用するようなヤツ…。

そいつの方がよっぽど汚らわしいんだよ!」


俺が声を荒げたせいか、周囲が無音に近いほど静まり返った。


朝倉が退職に追い込まれたのは、


直接的ではないにしろ、俺にも原因があったということか。


朝倉。


ごめんな……。


「悪いけど、もう二度と俺に話しかけるな」


「拓海…っ」


「同期の飲み会も、

お前が来るなら俺は参加しない」


壁をぐっと押して身体を起こすと、今度は見下すように日高を鋭く見た。


日高は俺の顔を見つめながら、ブルブルと身体を震わせていた。


その日高に背を向け、俺は急いで事務所に走った。


営業カバンを手にして、会社を飛び出す。


朝倉…。


朝倉…っ。


頼むから。


どうか、


まだあの部屋にいてくれ!

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