心を全部奪って
「じゃあ俺、行って来るから。

戸締り、ちゃんとしろよ?

誰か来ても、開けちゃダメだからな?」


「うん」


「じゃ、あとで」


「行ってらっしゃい」


そう言って朝倉がにっこり笑う。


「お、おう…」


名残惜しいけど、朝倉の顔をギリギリまで見ながら、俺はパタリとドアを閉めた。


しばらくすると、ガチャンって鍵を閉める音が聞こえた。


その音を確認すると、俺はカンカンと階段を駆け下りて、営業先へと向かった。


「行ってらっしゃい、か…」


ぽつり呟くと、思わず口元が緩んだ。


いいなあ、それ。


すげーいい。


毎朝それを聞けたら、どんなにかいいのに。


そんなことを思いながら、また猛暑日の東京をひたすら歩く俺だった。

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