28才の初恋
 株式会社『恒久ハンドショップ』本社は都内に在る十八階建てのビル、その四階から十六階までを使用している。
 残りの階は飲食店やスポーツジムなどに貸し出しているという形態だ。
 販売部は十二階にあたる部分に在って、エレベーターを降りて一番つき当たりの場所に部長室が陣取っている。

 その部長室の中で――大樹は桃代の前で地面に這いつくばるような格好をしていた。
 その行為は土下座と呼ばれる相手への全面降伏を認める、日本に古来から伝わる最大限の謝罪の意思表示である。

 桃代は部長室に備え付けられた革張りの黒いソファの上に腕を組んだ姿勢で座っていて、その視線は土下座をしている大樹を見下すような構図となっている。

「キミは……自分がやったことが分かっているのかね?」

 桃代は、尊大な口調で眼下に居る若者を責め立てる。
 その様子は不機嫌な表情をしながらも、どこか状況を楽しんでいるようだった。
< 141 / 518 >

この作品をシェア

pagetop