28才の初恋
「池田クン、出発しようか」

 デスクに向かっている大樹クンに声をかける。
 ふう、これがデートの誘いであるならば……どれほど嬉しいことか。
 まあ、そんな用件を気軽に言える間柄ならば、私の毎日はもっとピンク色に彩られているのだろうけれど。

 大樹クンも既に出発の準備を終えており、私たちは営業車に乗り込み会社を出発した。
 車の運転を大樹クンに任せ、私は助手席に座る。
 運転免許は持っているが、めったに運転をしないペーパードライバーになりつつある自分よりは、大樹クンに運転を任せた方が安心できる。

 うーん、本気で桃代部長のことなど無かったことにしてこのままドライブに行ってしまいたい。とふと考えてしまう。
 適当に景色の綺麗なところを流して、国道沿いでラブホなんかを見つけたらそのままハンドルを切って……ああっ!ダメ!まだ仕事中なのよっ!……なんてね。

――ハア、叶わぬ妄想だけにちょっと虚しくなった。

 『恒久』への、引いては桃代部長への対応は『とにかくご機嫌を取って、穏便に取引を再開できるように持って行く』ということで、私と海野部長との間で対応の基本姿勢は決まっていた。
 簡単に言えば、『桃代部長に対して接待』をする、ということだ。
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