28才の初恋
 商品の卸価格を再度調整した資料も持参しているが……これは大して役に立たないだろう。

 コトの発端は商品の価格であるが、人の感情というものはこういう時には厄介なものである。
 私の経験上でいけば、ここまで相手の感情がこじれてしまっていると、ビジネス上における問題の解決を提示してみたところで相手の態度が軟化することは望めない。

 つまりは……接待でもして機嫌を直させる。その上で情に訴えるしか方法は無いわけだ。

 こうやって大樹クンと二人で『恒久』に訪問するのだって、価格の改善をしたことを説明に行くわけではない。
 『失敗をした担当と上司が謝罪に来る』というシチュエーションを作り、相手の感情的な部分を納得させるような儀式の一種に過ぎない。

 嫌味も言われるだろうし、無茶な要求もされるだろう。それを神妙な表情で大人しく聞かなければならないのだ……気が重い。
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