28才の初恋
 いつもならば、ビアガーデンに来たら『とりあえずピッチャーで!』と頼むのだが。
 さすがに今日は大樹クンと二人きりだ。

 いつぞやのように、取り乱して記憶を無くすというような真似はしでかしたくはない。
 大人しく「大ジョッキ二つで」と注文する。

「しっかし、本当に暑いですねー」

 大樹クンがおしぼりで顔を拭きながらそう呟く。
 あうっ……!
 いつもならば『親父クサイ』と侮蔑しているような、おしぼりで顔を拭く、という行動でさえ……大樹クンがやるとナゼ格好良く感じるのだ!
 というか、そのおしぼりが欲しい!
 どうやれば手に入れることが出来るだろうか……?

――って、目の前に大樹クンが居て、しかも二人きりなのだ。そんなコトを考えている場合じゃないだろ!

 今日は、今日こそは少しだけでも二人の仲を進展させてみせる!

……おしぼりは、後で店員に金でも掴ませて入手しよう。
< 294 / 518 >

この作品をシェア

pagetop