28才の初恋
「どこに行こうか?」

 自然とその言葉が出せた。
 今まで、大樹クンと接する時にあった自分でもぎこちないと思えるほどの緊張が嘘のように消えているのを感じる。

「そうっすね、腹減ってませんか?」

 大樹クンに言葉に、今さらながらに自分の空腹を知覚した。
 昼ご飯を食べて以来、先ほど口に含んだ酢コンブ以外、何も食べていなかった。
 きっと緊張が空腹を忘れさせていたのだろう。
 大樹クンに会えて緊張が緩んだ瞬間にお腹に何も入ってないことを思い出した。

「オシっ! じゃあ、まずは腹ごしらえと行きますか」

 そう言いながら、私は初めて――大樹クンの手を自然に握れた。大樹クンも、ごく自然な形で私の手を握り返す。

 まるで、申し合わせたかのように。
 二人はかねてからの恋人のような雰囲気になっていた。
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