28才の初恋
 食事を終えて、地下街を抜け出して地上へと上がる。
 空調の効いた地下街とは違い、地上は八月の太陽が残して行った熱気をまだ地面に蓄えており、空気に伝わったその熱が蒸し暑さを肌に実感させる――が、私たちは手をどちらからでもなくシッカリと繋いでいる。

「これからどうしますか?」

 『まだ、帰る時間じゃないですよね?』そんな響きを含ませるような調子で大樹クンが聞いてくる。
 もちろん、私もこのまま帰る気も、帰らせる気も無い。
 お互いの気持ちは分かっているつもりでも、どうしても確かめないといけない気持ちがあるのだ。

 そういえば――と、思い出すことがある。
 高校の頃は、どちらかが告白することによって恋愛関係というものが成立していた。
 あの頃は、どうしてこんな面倒臭いことをするのだろう?と疑問に感じていた。
 しかし、今の私にはようやくその行為の意味が分かった。

 これは――『好き』という気持ちを伝えて、スタートラインに立つための儀式なのだ。
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