28才の初恋
「――夜景、見たいな」

 大樹クンにそう伝えて、心臓の鼓動が大きくなるのが分かった。

 これからスタートラインに立つということを意識して、緊張が深くなるのは陸上や水泳に似ているかも知れない。
 これが本当に陸上や水泳ならば――気持ちの落ち着かせ方も分かるのだが。
 これまで恋愛というものをロクに経験していなかったことを、改めて自覚させられた。

 いや、ロクな恋愛をしてきていなかった、という意味では無い。
 こんな――心がときめくような、純真な恋愛をこれまで私は経験していなかったのだ。

――『初恋は実らない』。

 一瞬、どこかで聞いたような言葉が脳裏をよぎり、このスタートラインに立つための儀式を成功させるために、せめて夜景の力を借りたいと思った私の無意識が告白の場所を選んだのだろうか。

 大樹クンの「いいですよ」という快諾によって、私の提案はすんなりと許諾され、私たちは新梅田シティビルへと向かった。
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