帰ってきたライオン

字のごとく、縫うように走る松田氏の普通のセダン。

どうやら彼はその昔、羊君も大いにハマっていた峠なる道をひた走るドラフトくんだりにどっぷりと浸りこんでいたようで、下手くそながらに毎週末通っていた羊君にはピンときたようだ。

だが、そんなことはどうでもいい。
松田氏の運転はさきほどのものとはうってかわり、嵐さながらびゅんびゅんと飛ばしている。

「大丈夫です、そんな叫ばなくても怖い運転はしませんし、ひとまず急がないと羊さんのフライト、間に合いませんので」


羊君の適当さ加減は最後まで発揮され、チケットをよーく確認しなかったおかげで、フライト時間、一時間間違えていた。


余裕を持って行動する松田氏に言いくるめられて家を出たのはかなり前のこと。空港には2時間前には余裕で着く計算だったが、羊君の勘違いとパーキングでのごたごたで、きっとギリギリで着く予定となってしまっていた。

羊君は携帯片手に調べものをし、空港に来ているであろう同僚と連絡でも取っているのだろう。

グリーンはあの一件のあとすぐにオーストラリアへ帰ったそうだ。

私たちの関係もはっきりし、国で一人になっているサマンサを思ってのことだ。
日本観光をしていくと言っていたグリーンにぴしゃりと、『か、え、れ』と言い放ったそうだ。


で、オーストラリアに着く時間に空港に出迎えてくれる約束をしているということで、ここで乗り遅れなぞしたら、確率99パーセント以上でグリーンの攻撃が勃発する。

こちらまでまた変に疑われてしまう。
それだけは避けたかったようだ。


「羊さん、パスポート用意しました? そろそろ着きます!」

「お、おお。やっぱさすがだな。ギリギリ間に合うか微妙な線だけどなんとか走る。パスポートはある」

「よし、着いたらトランクから荷物持って走ってくださいね!」

「おーよ」

タイヤの軋む音を聞くのは何回目だろうか。



お手本のように空港の車寄せに横付けされた松田氏の車は、停まったとたんトランクを開き、申し合わせていたように羊君はするりと車を降り、トランクからトランクを引っ張りだして、ガラガラさせながらゲートへ走る。

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