帰ってきたライオン

チェックインカウンターでチケットと荷物を慌ただしく預け、もう時間が無いから急いでくださいと急かされている羊君の背中が見える。

私と松田氏は車を端に停めてから急いで走ってきたけれど、羊君は更にダッシュして出発ゲートに入っていくところだった。


「羊君!!」


大声で叫んだけど、かきけされる。

人混みで前が見えず、焦りながら前へ前へ進む。

ふと人が抜けたらそこには出発ゲートに入ってこっちに手を振る羊君の姿があって、おもいっきり笑っていた。

それを見て私もおもいきり笑った。つられて松田氏も笑い、



「元気でいてください!」と羊君に言った。

「おう! 美桜泣かせるなよ」

「あなたにだけは言われたくないですけど、分かりました」

「よし!」

「羊君!」

「美桜、元気でな」

「ん。羊君もね」

「やべー、まじやべー、行くわ」

「「いってらっしゃい」」




最後の最後まで嵐のような羊君の後ろ姿が見えなくなるまで見送って、「やばい、車!」

今度は私たちが走る番だ。車寄せに停めっぱなしの車。空港で長時間停めっぱなしにするとすぐに警察が来る。
別に怪しいものはないんだけどなんだかそわそわしてしまう。

空を仰げば綿のような雲は切れ、目の奥が痛くなるような水色の空。心のすべてが洗い流されて清々しくなっていくようだ。

風もなく、高い空は至って落ち着いている。
順調にオーストラリアへ飛んで行けるだろうと思うとなぜだかほっとした。





「私たちも帰りましょうか、美桜さん」

「ん」

「そろそろ飛び立ちますね」

「飛行機の中で問題起こしてないといいんだけど」

「ありえそうで恐いですね」



なんだかくすぐったいけど、心地いい。

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