ココロトタマシイ
「美しいに麗しいって書いて“美麗”っていうんですよ」


空中に指で漢字を描きながら言うと。

彼も自分の手の平に漢字をなぞって、感心したような声をあげた。


「へぇ……綺麗な名前だな」


「私も気に入ってるんです。ありがとうございます」


しばらくそんなたわいもない話をして。

気が付くともう10時になっていた。


「健次さん……ちょっと遅くありません?」


「……やっぱ美麗ちゃんもそう思うか?」


まさか何かあったんじゃ………。

心臓がドクドクと脈打って、手が微かに震える。

膝の上でぎゅっと握る手に、健次さんが手を重ねて。

大丈夫だ、って言ってくれたけど。

私はただ頷くことしかできなくて。

どうしても胸の奥の不安を消し去ることができなかった。


そんな最中、処置室のランプが消えて。

ドアが開くと、数人の看護士と移動式ベッドに横たわる南くんが出てきた。


「南くん……っ!!」


私は一目散に駆け寄ると、ベッドの横について。

病室まで着いていった。


「もし何かあったらそこのボタンを押して下さいね」


ベッド脇にあるナースコールを指差しながら言うと、看護士さんは病室を出て行った。

しんとした部屋に南くんと私だけが残される。

琥珀色の瞳を閉じて、規則正しい寝息をたてる南くんは。


腕に点滴を受けて、口にはよく手術なんかに使ってるカバーみたいのをしている。

入院着からはみ出している包帯はちょっと痛々しい。


「……私のせい、だよね………」


あの時、私が捕まったばっかりに……。


「ごめんね……」


そっと手に触れると、暖かくてほっとした。

そのままベッドの横の椅子に座って、考えを巡らせる。





――…そして、ある決心をついた。

あとは、南くんに了承を得られるかどうか……。


この時私は、これからもっと考えることが多くなるなんて。

知るよしもなかった。


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