詐欺師の恋
遺品をいじったことは、あまり褒められたことではないけど。



彼女のことだから、俺のことを考えての行動なんだろうとは思う。




本当に、お節介だけど。





『お父さんは、中堀さんに青い空になれなんて、言ってないんじゃないですか?』




いつも、予想外な所から、恐れることなく、ストレートを投げてくる。





確かに、言ってないよ。青くなれ、なんて、一言も言わなかった。



―何にも代わることのできない、大事な色だった。それを誇るべきだった。



『お父さんが、中堀さんのことを見て、見つけた色なんです。』





所詮、他人のことなのに。


なんであんなに必死になれるんだろう。



心をひどく痛めているかのように、切ない顔をして。


俺はあんたに何もしてやれないのに。


触れることさえ、怖いくらいなのに。



ただ、彼女が居てくれると、あの家も少し違う。


本当は手放すつもりだったけど。



そばに、もう少し、居てもらってもいいかな。



初めて持つ、この気持ちに、名前を付けて、良いかな。





たとえ。



彼女の言うことが、ただの独り善がりでも。



真実じゃないとしても。





あんたさえ。




あんたさえ、そう言ってくれるなら。


それだけで。


陽の光の下を、歩けるような気がしたんだ。


夜明けの空を、眺められる気がしたんだ。

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