詐欺師の恋
小さな溜め息と共に呟いた言葉は、とっくに消えて行った。



彼女は見えなくなる直前に後ろを振り返って、ぶんぶんと大きく手を振った。



それに小さく応じ、完全に姿が隠れると、煙草を一本取り出し、火を着ける。







―あれも、相当な御人好しだよな。





心の中でそう考えると、自然と笑みが零れた。




あの人とは違う種類の、御人好し。



余裕のない、猪突猛進の、女。



不器用で、すぐ泣く。




手間のかかる、阿呆。





けど。



嫌じゃない。







『えええええええっっっ!?!』





会場に響いた、花音の叫び声がまだ痛いくらいに耳に残ってる。





あと少し間違えたら、危うく顎に頭突きをくらう所だった。






顔を真っ赤にして、口をパクパクする彼女は、見てて滑稽だったけど。





あんたと居ると、飽きないよ。







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