詐欺師の恋
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「今回は長く居るんじゃなかったのー?」




よく晴れた日の夕暮れ。



ル・ルヴェ・デュ・ジュールのカウンターの上で、頬杖をついたケイがふてくさっている。





「気が、変わった。」




手続きの書類に、記入しながら答える。





「ほーんと、零の気紛れってコロコロ変わって困るよなー。あの家はどーすんのさー。いつになくほのぼのした所だったじゃん。」





「あー…」




一瞬、脳裏に浮かんだ、いつかの風景。




「誰かに、貸すかな」




それを振り払うように、一旦止まったペンを再度走らせた。





「…ふぅん。」






ケイは不満げに呟く。



店内に居るのは、俺とケイのふたりだけだった。



お互いが黙り込めば、静寂が支配する。



開店準備の為に、換気している店内は、橙色の陽射しが差し込んでいる。



そのせいで、記入している用紙は斜め半分は明るく、もう半分は影になっていた。








「メリッサには、会っていかないの?」








記入し終わったと同時にペンをぱたりとカウンターに置き、荷物を持って。





「いいよ。あいつに会うと色々五月蝿いから。」




空いた手でキャップを深く被り、振り返らずに出て行った。





「零!また、帰ってくるよな?」





ケイが飛び出してきて、訊ねるけど。






「待ってるからな!!」





立ち止まる事無く、クラブの前に停めた車に乗り込んだ。
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