詐欺師の恋
「何、するわけでもないんだけどさ、カウンターの隅に座って、ぼけっと酒飲んで帰るんだ。それがかなり整った顔立ちでさ。」




冷えたジンが喉を通っていくのを感じ、俺はうっとりとしながら、燈真の話を聞くフリをする。




「話しかけてもうんともすんとも言わないんだよな。男探しの女共が何度も声かけしてんの見たけど、そうすると直ぐに立ち上がって不愉快そうな顔して出て行く。あんまり目立つから、野郎共から難癖もつけられてるだろうけど、怪我してる所は見たことないな。」




腕組みしながら、話す燈真の顔は少し楽しそうだ。





「ふーーーん、俺、しらねーよ?そんな奴。」





俺は気のない返事を返す。



っていうか、興味無い。


俺より目立つ時点でちょっと腹立つし。





「まだ、3、4回くらいしか来てないし、来るのは月曜の夜だから、崇は知らないに決まってるよ。お前月曜は来ないもんな?」





燈真は腕組みを解いて、カウンターに手を付いた。




そうして、前かがみになって、呟く。






「つーわけで、今度の月曜、来いよ?」





カラリとグラスの中の氷が音を立てて回った。

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