詐欺師の恋











春の暖かな木漏れ日が、穏やかな風と共に窓から入り込む。





私は、スルスルと途切れることなく落ちていく林檎の皮を、食い入るように見つめた。





「足を滑らせて階段から落ちる、とか。本当に、花音ってばドジなんだから!!」




憲子はさっきからぶつぶつと小言を言っているのだけど、慣れた手つきは少しもブレない。





「しかも駅に行くのに、どうして普段使わない歩道橋とか使うのよ?!反対でしょうよ!?」




「いや、えっと…ちょっと冒険してみたくなって…」




「馬鹿!意味わかんない!」




理解できないというように、憲子は頭をぶんぶん振って、切り終わった林檎のひとつを、私の口に放り込んだ。





「ん!おい…ひぃー」





階段から落ちた直後の記憶は、飛んでて、ない。



医者の話によると、私は階段の中腹にある踊り場で止まったらしく。下まで転がっていたら死んでいただろうねとさらっと言われた。



幸い、打撲と腰のなんとかって部分を骨折しただけで済んで。


頭の検査も済ませたが、異常なしとのことだった。



二週間と3日の入院。




大体元気なので、暇です。
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