詐欺師の恋
「あー、でも救急車、初体験だったのに、乗った記憶がないとか残念すぎるなぁー」




林檎を飲み込んだ後、残念そうに呟くと、憲子が呆れた顔をした。




「そんなんより、入院中に誕生日っていうのの方がよっぽど残念だと思うけど?」




「うっ…」




誕生日というキーワードを聞いて、私の脳裏には嫌なことしか思い浮かばない。




入院して5日になるが、当然の事ながら、この大騒動は親にも伝わっていて。




勿論、誕生日に会う予定だった祖母の耳にも入ったらしく。




大騒ぎして見舞いに来た両親からとんでもないことを伝えられた。





『おばあちゃんそれはそれは心配してねぇ!見合い相手も日取りも完璧決めちゃったのよ!!』


心配した後の矛先が間違っている気がする。


余りな出来事に腹を立てた私は、世話をしに、暫くこっちに滞在するつもりだった両親を、半泣きで追い返した。



けど、お見合いはなくならない。



「…いいもん。どうせ退院したらロクなこと待ってないもん。」





私はぶすっと膨れっ面を作り、枕を抱いた。





憲子はパイプ椅子に座り、そんな私を今度は哀れそうに見つめる。





「本当に、ツイてないわよねぇー。」




「・・・」





ぎゅうぎゅうの六人部屋だけれど、窓際だった事だけはツイていたと、私は内心思っている。
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