詐欺師の恋
左手にはお弁当の入った袋が提げられている。



玄関で突っ立ったまま。



私は鞄の中に手を入れて携帯を探し出し、片手で操作する。



お目当ての番号は直ぐに表示されるようになっている。



迷う事無く通話ボタンを押すと、耳に当てた。



それから、しまった、と腕時計で時間を確認した。





《―はい》





けれど、予想に反して相手は電話に出た。





「あれ、あ、こ、こんばんは。」





明らかに挙動不審な動きをしながら、私はひとり焦った返事をする。





《あれって何?》




外に居るのだろうか。



時折、風の音がするように思う。






「あの、すみませ…こんな時間に…な、中堀さん、仕事の時間だから、、出ないかと思っていたので…」






新しいクラブの名前は何というのか、まだ知らない。



けれど、DJとして引っ張りだこの彼の新しい職場は既に決まっていた。



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