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しかし撮影は順調には進まなかった…。

カシャ… カシャ… カシャ…

歯切れの悪いシャッター音。

「Gee…」

カメラマンさんが漏らす溜め息。

英語ばかりが飛び交う現場での初めてのモデル業は想像以上に大変で、開始数分 すでに困難を極めていた。

やっぱり背伸びなんかするんじゃなかった…

あたしの“宣言”なんてただの綺麗事に過ぎなかったなと今頃になって痛感する。

あまりに場違いすぎて、もう逃げ出してしまいたい…

溢れた涙がこぼれ落ちそうになったその時。

「絹、こっち向け!」

声の方を向くと、貴が何だか大きいカメラを構えている。

「貴…?」

「恒兄の一眼レフ、ちょっと失敬してきた」

貴と甲ちゃんはパパ(恒輔)のことをそう呼ぶ。

生前のパパにどうやら二人は会っていたらしい、詳しいことは聞いてないけれど…
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