奥様のお仕事
初めての飛行機に手に汗をにぎる。
窓際にと 浩一郎が言ってくれたけど 
怖くて目を閉じた。


「マリン ちゃんと目を開けて 海にさよならしなさい」


恐る恐る目を開けると 上から見る海の色は
私の知ってる海とはまた全然違っていた。


「バイバイ……いつかまた戻ってくるからね」


どんどん急上昇していく機体から 海はとうとう見えなくなって
涙が流れ落ちた。


「どうしても海が恋しくなったら
マリンは鏡で 自分の瞳を覗き込んでごらん 同じ色をしてる」


浩一郎の優しい笑顔と言葉に 胸が熱くなった。


じいちゃん
私これから どうなるんだろう
この人についてきて 本当によかったんだろうか


祖父の遺言を持ってきた 浩一郎を頼るようにと


今は この道しか 私に残された道はないから・・・・・・
書類らしきものに 目を通している浩一郎を盗み見した。



さっきの優しい微笑みをくれた人とは思えなくくらい
冷たい横顔に見えた。


仕事の顔・・・・・・・
仕事を始めたら 私もこんな真剣な顔するようになるのかな








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