この気持ちをあなたに伝えたい
 何を頑張るのか、主語が抜けているので、訳がわからない。それは美鈴も同じだった。

「何をさ?」
「よくわからん」

 メールの履歴にはほとんど礼雅で埋まったり、楽しそうに礼雅のことを話す最愛を見て、美鈴は最愛と礼雅の仲の良さを改めて羨ましく感じていた。
 それから最愛と美鈴は音楽を聴きながら読書をしたり、ゲームをしたり、お喋りをしていた。

「時間が経つのはあっという間だね」
「そうだな」
「あたし、雨が降らない間に帰るね」

 美鈴がパソコンを置いているテーブルの上に手をついて、ゆっくりと腰を上げた。

「美鈴、傘を・・・・・・」
「いいよ、大丈夫」

 最愛は少し強引に美鈴に傘を貸した。風邪でも引いて苦しませたくなかったから。傘を返すのはいつでもいいことを伝えて、最愛はマンションの下まで美鈴を送り、手を振ってから踵を返した。
 その夜、最愛は礼雅の家に行くつもりはなかったが、気がついたら玄関のチャイムを鳴らしていた。

「あれ? 最愛・・・・・・」
「これ、食べないか?」

 カステラを礼雅に渡すと、中に入るように最愛は背中を押された。
 キッチンを見ると、食器がまだ洗っていない状態だった。いつもだったら、食べ終わるとすぐに片づけるから。

「食べ終わったばかりだからな」
「残業?」
「違う。同僚達と少し寄り道をしていただけだ」

 切り分けられたカステラを皿に並べて、フォークをセットしてから礼雅の部屋へ入った。
 母が礼雅に貸したDVDを二人で観ながら、カステラを食べていた。

「楽しかったか? 友達と会えて」
「楽しかったな。また可愛くなっていた」

 最愛にとって、それが羨ましくて仕方がなかった。

「写真・・・・・・」
「見せない!」
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