この気持ちをあなたに伝えたい
「もしもし?」
『最愛、今日、何か予定はある?』

 電話をかけてきたのは美鈴からだった。

「いや、ない・・・・・・」
『ちょっと会いたいけど、いい?』
「今、家にいるんだ。何時にどこへ行けばいい?」

 美鈴は最愛のマンションの近くのパン屋にいることを聞き、荷物を家に置いてから、そこへ向かった。
 パン屋に到着すると、店内は人が少なく、美鈴を見つけることは簡単だった。美鈴のところまで行くと、手帳に何かを書いていた美鈴が顔を上げた。

「待たせたな」
「ううん、大丈夫だよ。最愛も何か買ったら?」
「あぁ」

 最愛はミルクパンを一個買って、席へ戻る。

「それでどうしたんだ?」
「今日はこれを返すために来たのよ」

 テーブルの上に出したのは最愛が美鈴に貸した小説だった。
 前に最愛の傘を返して、美鈴が最愛の部屋に忘れた本を受け取りに来たときに貸した。

「何度も会おうとしたのに、ここのところ最愛に会うことができなかった」
「そんな、焦らなくていいのに・・・・・・」

 小説を美鈴から受け取り、ミルクパンを齧る。しばらくは二人で他愛もない話をしていた。

「最愛、気になっていたんだけれど、ちゃんと眠っている?」
「これか・・・・・・」

 美鈴は最愛のクマを指摘して、心配そうに見つめてくる。

「夜中に・・・・・・何度か起きるんだ・・・・・・」
「暑さで?」
「それもあるだろうが、夢を見て・・・・・・」

 最愛が夢のことを話している間、美鈴は自分達の高校生活を思い出していた。
 高校生だったときにも同じことがあり、そのときも最愛は苦しんでいた。
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