この気持ちをあなたに伝えたい
 最愛は知りたくなかったことを知ってしまい、忘れてしまいたかった。古霜先生はあの日から嫌な音を立てながら崩れ、それが元に戻ることは二度となかった。

「最愛、何を考えているの?」
「ううん、何も」

 体育館でバレーをやっている間はどこも怪我をしなかったのに、授業が終わって更衣室へ戻ろうとしていたときに転んで膝から血を流してしまった。クラスの生徒達が心配してくれて、何人かが保健室へ連れて行こうとしたが、次も移動があるから先に行くように促した。保健室を見ても、外からだと人がいるのかどうか判断することができない。このまま戻れば、みんなに怪しまれる。
 イライラしながらポケットの中に手を入れると、絆創膏が入っていることに気がついた。

「あれ?」

 昔から絆創膏はすぐに使えるようにと持ち歩いていた。
 しかしそれは常に鞄の中に入れているので、いつポケットに入れていたのだろうと一人で首を傾げていたとき、保健室のカーテンが小さく揺れたので、慌てて体育館の中へ入った。
 古霜先生の声が聞こえ、どうしてまた保健室にいるのか考えていると、今度は知らない女の先生の声が耳に届いた。

「古霜先生、どうかしましたか?」
「いえ、誰かがいる感じがしましたので・・・・・・」

 思わず肩が震えた。幸い、最愛だということには気づいてはいないようだ。

「女子生徒でしょうか?」
「どうでしょう?」
「そうだ、メモ用紙をありがとうございました」

 どうやら古霜先生が女の先生にメモ用紙を数枚あげていたようだ。

「どういたしまして」
「ちょうどなくなったときに必要になったので焦りましたよ」
「困ったときはお互い様です」

 きっと誰もが見惚れるような笑顔を見せているのだろう。
 
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